油圧機器を安全かつ長く使ううえで、作動油のメンテナンスは欠かせません。
しかし、「なぜ作動油は劣化するのか?」「いつ交換すればいいのか?」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
本記事では、作動油の劣化原因やその影響、交換時期の目安となるNAS等級について、初心者でもわかるよう丁寧に解説していきます。
そもそもなぜ作動油は劣化するのか?
なぜ劣化するのか?の前に、そもそも、そもそも「劣化」って何?というところから考えていきましょう。
作動油の劣化とは以下の二つを指します。
- 汚染物質が発生すること
- 作動油が酸化すること
汚染物質は別名でコンタミネーションと言い、コンタミって省略されていることが多いと思います。
汚染物質とは髪の毛太さ程度のゴミ・水分のことを言い、様々な理由で発生し様々な問題を引き起こします。
劣化(コンタミネーション)の発生原因
コンタミは様々な理由で発生しますが、大きく分けると3つにまとめることが出来ます。
- 製造工程で発生したコンタミ
- 油圧装置を使用した際、内部で発生したコンタミ
- 油圧装置を使用した際、外部で発生したコンタミ
製造工程で発生したコンタミとは
タンクやポンプなどを製作する際に発生する切粉、溶接スパッタ、塗料など油圧装置メーカーが「製造・組立」をする過程で発生する場合。
油圧ホースや鋼管による配管時にシールテープ、錆、塗料、ほこり、水分などが混入する「施工の過程」で発生する場合。
以上の二つが主な発生原因となります。
油圧装置を使用した際、内部で発生したコンタミとは
油圧装置の内部は摺動部だらけです。シリンダーのチューブとピストン部の摺動。ピストンポンプの斜板とピストンの摺動部等々・・・。摺動部の摩耗により鉄粉が発生するとコンタミとなって油圧回路の中を巡回します。
鉄粉だけではなく、タンク内部の空気(空気内の水分)が温度変化により結露を起こし、水分を発生させます。それ以外にも水冷クーラーからの水漏れなどで水分の混入が発生します。
油圧装置を使用した際、外部で発生したコンタミとは
タンクにはエアーブリーザという吸気口が設けられている場合がありますが、そこからの水分やごみの侵入。作動油の注油時のごみの侵入。シリンダーの摺動部からのごみの侵入が考えられます。
劣化するとどうなる?
劣化するとどうなるのか?について記載します。
作動油が劣化するとどうなる?ずばり 機械が壊れる です。
壊れ方は多岐にわたりますので、その一部を記載します。
- ポンプの漏れ量が増加する
- オリフィスの目詰まり
- ポンプ吸い込みの負荷増大
- 冷却異常
- シリンダー等の摺動部にかじり
油圧の内部は摺動する部分が多いためコンタミが入り込むことで傷をつけたり、詰まらせたりするわけです。また冷却異常が発生すると異常に発熱し、さらに劣化を進めます。60度以上になると作動油の劣化速度は上昇するとされています。さらに粘度が下がることで油膜切れなどが発生し、動作に影響を及ぼす可能性があります。
本当に良いことがありませんねー。まさに百害あって一利なし。
作動油の使用限界と測定方法
実際に目の前の作動油が劣化しているのか、していないのかの調査方法について記載します。
作動油の汚染度は等級で分けることが出来ます。等級の名称はNAS級と言われ、00級から~12級まであります。NAS級はオイル100ml中の各サイズのコンタミの個数を数え、等級ごとに規定された数と比較することで等級分けができます。
各サイズのコンタミとは5~15㎛・15~25㎛・25~50㎛・50~100㎛・それ以上・で設定されています。オイル内部の各サイズのコンタミの数を数えるわけです。
NAS級の推奨レベルについては、回路の構成や用途により変わりますがYUKENさんのデーターシートには下記の記載があります。
使用条件 | NAS級 |
サーボ弁 | 7級 |
ピストンポンプを用いた回路 | 9級 |
比例弁を用いた回路 | 9級 |
21MPa以上の装置 | 9級 |
14~21MPa以上の装置 | 10級 |
一般低圧装置 | 11級 |
また、汚染が進んだ作動油はろ過を行い、フィルターに付着したコンタミの重さを測定する質量法が用いられます。コンタミ以外にも水分量によっても限界値が存在します。
作動油が水分により白濁しているもの | 即時交換 |
装置内で作動油が循環し、長期間停止をしない設備 | 500ppm |
配管が長いなどにより、完全に循環しない設備 | 300ppm |
長期間停止しておく設備 | 200ppm |
回路内の作動油がほとんど移動しない設備 | 200ppm |
精密機械 | 200ppm |
100ppm=0.01%
新品の作動油ではおおよそ50~80ppmの水分が混入しているといわれています。
まとめ
油圧システムの信頼性を維持するには、作動油の管理が不可欠です。
近年、メンテナンスの手間や環境問題から「油圧レス化」が進んでいますが、それでも油圧には油圧ならではの強みがあります。
適切なタイミングでの交換と、NAS等級・水分量のチェックを習慣化することで、トラブルを未然に防ぐことができます。
これからも油圧について正しい知識を身につけ、賢く使っていきましょう。
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