摩擦式締結具(パワーロック)の失敗談~実体験から学んだ注意点と対策~

摩擦式締結具は、キー溝加工が不要で高トルク伝達が可能な便利な機械要素です。
その一方で、正しく理解していないと設計や組付けで思わぬトラブルにつながることもあります。

私自身も実際に「これはやってはいけなかった…」という失敗を経験しました。
今回はその実体験をもとに、パワーロックで起きやすいミスと注意点について解説します。

※ここで書いた内容や数値はあくまで私個人の経験則です。実際の設計では必ず各メーカーのカタログを参照し、自己責任で判断してください。

体験① すべった

摩擦式締結具(パワーロック)は、軸とボスの間で摩擦力を生み出し、トルクを伝達するために使用されます。
つまり「すべらないこと」が最大の使命。ところが、実際にすべってしまったことがあります。

原因を振り返ると、設計段階での安全率の見積もりに問題がありました。
カタログには「サーボモーターやステッピングモーターの締結には、それぞれの最大トルクに対して安全率1以上を見込むこと」と記載されていました。
そこで自分は、そのまま安全率1で設計を行ったのですが…結果は滑ってしまったのです。

全てのメーカーとは言えませんが、カタログに記載されているトルク値は「理論上の限界値」に近く、実際の安全率は含まれていないケースが多いのだと思います。
その経験以来、私はサーボモーターでは最大トルク(定格の倍)の3倍、つまり定格の9倍の安全率を見込むようにしています。

体験② ボスが割れた

摩擦式締結具(パワーロック)は、締め付けることで内外に強力な面圧を発生させます。
この面圧は非常に大きいため、相手側の部品の強度が不足していると、変形や破損を引き起こすことがあります。

私が経験したトラブルでは、カタログに記載されている「相手部品の材質と必要外径」を守って設計していました。
しかし、実際の組付け時に作業者が締め付けトルクを超えて締めてしまい、その結果、外径側の部品が割れてしまったのです。

さらに反省点として、設計側も「できるだけコンパクトにしたい」とギリギリを狙っていたのも原因の一つでした。

この経験から学んだのは、

  • 現場の作業者も設計者も「技術者」という同じ認識を持つことの大切さ
  • さらに、お客様自身で修理・再組付けを行う可能性もあるため、設計段階から余裕を見て強度を確保する必要があること

です。
最適化や小型化も大事ですが、「安全余裕をどこまで確保するか」こそ、長期的な信頼につながると痛感した一件でした。

体験③ 軸が変形した

これは体験②の「軸側バージョン」の失敗です。

中空軸にブッシュを取り付け、その内部にさらに軸をスライドさせる構造を設計しました。
ところが、このブッシュとパワーロックを同一面に配置してしまったのです。

結果として、パワーロックを締め付けると軸とブッシュが一緒に変形してしまい、内部の軸がスライドできなくなるという問題が発生しました。

図面はあくまで「静止画」です。
どのように動くのか、どの方向に力がかかるのか、そしてそれによってどんな変形が起こり得るのか。
設計者はその「未来の動き」を頭の中でシミュレーションしなければなりません。

私は当時、上司からよく「静止画の男」と言われていました。
まさにその言葉通りの失敗でした。

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